玉垂29号
発行:平成22年6月1日
水の恵み
もみじの新緑が眩しい季節となってまいりました。境内を南北に流れる
宮川のせせらぎの音が気持ちよく心に響きます。この宮川には二カ所の水
口があります。宮奥堰堤の水口からの水路は、御本殿の廻りを北側から西
側へと沿うように進み、参集殿と社務所の地下を一部通ります。さらに、
参道の西側を南下して、ことまち池に至ります。池からは太鼓橋まで進み、
花菖蒲園に流れます。もう一カ所の斎館裏からの水路は、参道東側の杉や
檜の境内林の中を進み、太鼓橋にて合流します。二つの水路は約三五〇年
前に描かれた神社周辺の古地図にもあり、境内林への水の供給と防火用水
としての役目は古より何ら変わりがないことを示しています。また、花菖
蒲園に至った水は、うまし水として初夏に咲く可憐な花菖蒲を育んでくれ
ています。
御本殿の御垣内には「真名井」があり、その水は神事と古式神酒の製造
にだけ使われます。毎日ご神前にお供えする神饌を調理する建物の南側に
あり、檜皮葺の屋根が井戸を覆っています。正月寒中の初丑の日の丑の刻
(午前二時)に汲んでお祓いをした水は「御霊水」といわれ、家の四隅に
注ぐと年中火難がなく安泰に過ごすことが出来ると伝えられています。ま
た、年四回の「古式神酒」の製造では、先ず仕込みの前に真名井の水温を
測ります。その後、蒸された米と糀を木製の樽に入れ、続けて水を入れま
す。水量は米の量にもよりますが、二十六〜四十㍑程です。添え仕込みの
時も、同様に真名井の水を使います。その後、約一ヶ月で熟成された神酒
は、祭典にてお供えされます。
宮代伏間地区に鎮座する塩井神社には、「塩井戸」があります。江戸時
代の記録によると、「一宮山中にあって、何時も干満があり、味は潮のよ
うである。大雨や洪水で塩がない時は、この塩水を汲んで煮て、お供えの
塩に用いる。」とあり、当時の神職達の神饌調達の苦労を窺い知ることが出
来ます。また、四月の例祭前に塩井神社では、「垢籬祭」が斎行されます。
浜下りともいわれ、お祓いのお祭りとなります。ここでも塩井戸の水が汲
まれ神社に持ち帰られ、神職及び舞楽人は例祭の間、お風呂にその水を注
ぎ浄めます。一方、塩井戸の水は胃腸の薬とも云われ、時には汲んで持ち
帰る参拝者の方も居られます。
この様に神社では様々な形で杜の水の恵みを受けています。当社に限ら
ず全国の多くのお社には鎮守の杜があり、それぞれ懸命に杜を守る努力を
しておられます。神社の護持発展のため、今後も氏子崇敬者の皆様方のご
理解とご協力を戴けますようお願い申し上げます。