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玉垂8号

発行:平成15年8月15日

小國神社参道並木保全対策

ここへ案内すると、間違いなくすごい社叢林だなーと異口同音に驚きの声をあげる。先日久しぶりに訪ねてくれた高校時代の同級生は参詣の帰路、別の意味で私にお礼を言った。商社勤務であった彼は地方に行く度にその地方の一の宮参りをしてきたという。既に三十箇所を越す一の宮に詣でていて、退職後にはすべて参詣する予定をしていると話していた。彼にそのような趣味?があるとは知らずに案内したわけだが。
小國神社の社も自然にこのようになったわけではない。千五百年近い昔にこの地を選んで建立されてから、想像するだけでも気の遠くなるような維持管理作業が営々と続けられてきたに違いないからである。機械を使って作業ができるようになったのはつい近年のことで、それまでは全て道具を工夫しながら人力で行ってきたことを思うと想像を絶するものがある。現在もその流れを引き継いで氏子の方々は云うまでもなく、宮司さん以下神職の皆さんが、この杜を存続するためにはどのようにすればよいかと腐心されている様子は敬服に値するものがある。
その中の一環として検討課題とされたひとつが参道の並木である。即ち近年、参道の杉並木に枯れ枝が増え、いつでも鬱蒼として暗かった参道がこのごろ明るくなってきたのは何故か、ということからその原因と対策を立てることになった。
原因としては踏圧の害が考えられた。正月の三ヶ日だけでも三十万人を越す人波だという。参詣者が多くなることは大変喜ばしいことであるが、それだけ多くの人たちが地面を踏みつけることになる。この影響は想像以上に悪い影響を与え、根の生育を阻害するだけでなく、ひどくなると根を枯らしてしまうこともしばしばある。あまり知られていないことであるが、歩いているときの人間の踵が地面に与える圧力(接地圧という)はブルドーザーの接地圧よりも大きいのである。
車体重量が大きいブルドーザーはキャタピラーで接地面積を大きくして単位面積当りの接地圧を小さくしている。湿地ブルドーザーなどは、人間の足がずぶずぶともぐりこむ湿地でも平気で沈まずに仕事をしている場面はよく見られるところである。
根が傷んでいることは間違いないと判断したが推定だけで結論を出すわけにはいかないので、一m~•、六m深さ八十cmの穴を三ヶ所試して根系調査をした。
その結果、根の少なさは想像をはるかに超えていた。参道部分にはごくわずかの細い根しか分布していないことが明らかになった。この調査に先立って枯れ枝落下事故を未然に防ぐ意味で枯れ枝伐採除去を行った。樹高四十mに届くには二十五tレッカーが必要だった。
このレッカーを入れても参道は全くへこまなかった。
表面十cmの硬さは舗装道路以上であった。これだけ硬いと雨水は入っていかないし、当然空気も入らないので根は酸介状態になり生きられない。+cm から下はコチコチの単粒構造の赤土で深くまで硬く締まっていて、北西及び西側の山からみ出てくる地下水は、参道で遮断されて東側へ抜けにくくなっていた。直径二十cm程度の枯れ枝がかなりあった。三年や五年でこんなに太い枝まで枯れこまない。少なくとも二十年近く前から根の障害は始まっていたはずである。
そのような調査結果から土壌改良対策として、土を柔らかくする、土の中に空気を送り込み酸素を補給する、土の粒を大きな塊にする(団粒化、栗おこしのような形にする)…の三項目が必要と考えた。土を掘り返して改良材を混ぜて埋め戻すという普通の方法では参詣者の通行を妨げるので行えない。
そこで圧縮空気を土中で爆噴させる機具を使用することにした。爆噴した瞬間には半径一m近くの地面がブワッと浮き上がる。深さ十五cm、二十五cmの位置で爆噴させ硬く締まった粘土層に裂を入れ、土壌団粒化剤と酸素発生剤、薄い液肥を混合し液地注入した。
作業でできた穴にはつぶれ難く加工されたセラミック細粒炭を充填した。一部有機質肥料を入れたところもある。
一度加工したからそれで見事に復活するわけではない。毎日踏み固められているのだから毎月のように施工すればよいのだがそういうわけにもいかないので一年に一度くらいは施工したらどうだろうかと提案している。この一連の工法は既に充分実績がある。また現在の並木の状態を基本台帳的に写真と共に記録保存して、五十年後百年後にこの変化が後世比較検討できるようにと記録を作った。まだ勅使参道に沿った部分だけではあるが。五年十年と継続する事によって枝葉に必ず変化が出てくるはずなので、それがはっきり見えるようになるときを楽しみにしている。五十年後百年後の氏子さんや宮司さんたちはどにように評価するだろうか。