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玉垂46号

発行:平成28年3月20日

春の訪れによせて

 立春が過ぎ、冬も終わりを告げるころ時折吹く厳しい風もありますが、陽射しは柔らかくなり、春の気配も駆け足で迫ってきます。 芽吹いた生命が力強く成長していく様は、毎年のことながら心が沸き立つ思いです。氏子崇敬者の皆様方には、ご壮健にてお過ごしのことと拝察申し上げます。
 さて、本年三月初旬は真冬のような寒さの日もございましたが、それを過ぎますと春本番の暖かさの到来となりました。春の訪れを告げる当社の桜も平年並みか少し早い段階で開花を迎えそうです。昨年、見事に咲き揃いました門前の江戸彼岸群の枝垂れ桜も順調に成長しており、去年よりも立派な枝ぶりに開花を今か今かと心待ちにしております。
 華やかな春の訪れを彩る桜は、多くの人々に愛されてきました。古代において桜は山桜が主であり、農閑期に田の神が里から山へと帰り、農耕を開始する時期に田の神が山桜に宿ることで開花すると考えられてきました。また、山野に咲く桜花を遠くから眺めて稲の稔りの吉凶を占ったとも言われています。そして、農事暦を伝える神聖な桜の木に、古人は供え物をして田の神をお迎えし一年の豊穣を祈りました。
 また、私たちが桜に抱く心象風景は、桜そのものが持つ美しさへの感嘆もさることながら「咲く」ことに強い思いを寄せ、また反対に「散る」ことを惜しむような内なる心模様ではないでしょうか。
このような心の有り様は、八世紀後半に成立したとされる現存する日本最古の和歌集「万葉集」に記された山桜を詠んだ詩歌からも伺えます。このような大和心はすでにこの時代から確立され、自然の営みと共に育まれた「祖先のこころ」は、現代に生きる「私たちのこころ」に深く繋がっていることがわかります。
 五感の一つ一つで季節を感じ、その中でごく自然に祖先と繋がり、土地と繋がり、神々と繋がる。この「繋がり」を意識しながら生活を営むことは、心の安寧や平穏に繋がることと存じます。
 花々が咲き始めますと、御例祭も近づいてまいります。各位のご健勝をお祈り申し上げますと共に、お揃いでのご参拝をお待ち致しております。