玉垂47号
発行:平成28年6月1日
巻 頭 言
此の度の熊本地震では、九州地方に甚大な被害を及ぼし、多くの尊い命が失われました。改めまして、犠牲になられた方々に謹んで哀悼の意を表しますとともに、被災されたすべての方に心からのお見舞いを申し上げます。困難の中にいる人々が一日も早く普通の生活を取り戻すことができるよう、これからも国民が心を一つにして寄り添っていくことが大切であると存じます。
さて、平安時代から受け継がれる日本の色彩感覚の中に「重ねの色目」と呼ばれる大変美しい色調があります。これは、表と裏の色の組み合わせにより季節の色を表現し、またその色彩の衣を身に纏うことで自然との一体感を楽しみました。特に、菖蒲にまつわる色のバリエーションは大変豊かで「菖蒲」「破菖蒲」「若菖蒲」「根菖蒲」「菖蒲重」などがあります。これらは、菖蒲の花や葉の色に留まらず、根の色までも季節の色彩として取り入れています。私たちの祖先は、自然と共に生きる中で、自然を丁寧に観察し、それらを生活の中に取り込み、文化芸術へと昇華してきました。このような「共生の精神」のなかで培われた豊かな感性が今、世界から注目を浴びています。
一方、我が国を取り巻く国際情勢は、中国による東、南シナ海での行為のように国際法を無視した様々な「力」による現状変更が行なわれています。また、サイバーテロなどの脅威は日常生活の中に入り込み、どこからが有事なのか区別がつきません。このような暴力的拡張主義や対立などで世界が揺れる中、我が国が果す役割は、時代に則した国防力を整備しつつ、民主主義と法の支配を尊重する価値観を世界各国と共有する事です。また、古来先人たちは、神々が宿る自然を「畏れ慎む心」と恵みへの「感謝の心」を大切に、和の文化を育んで来ました。そして、そこに象徴される精神や伝統あるいは優れた技術力を世界へ発信することも、日本らしい国際貢献であると存じます。
昨日、伊勢志摩サミットに出席するG7の首脳が伊勢の神宮を参拝されました。我が国の伝統文化に直接触れて頂くことは、大変有意義な事だと思いました。