玉垂65号
発行:令和四年六月三十日
国の光りを輝かせる
初夏の訪れを告げる、新緑の青もみじは七月の慈雨の恵みを受け、緑深まる深緑へと移り変わります。日に日にその姿を変えるご神域は、自然の神秘で溢れ、日々多くの気づきを与えてくれます。大正年間に刊行された『森林美学』という本には、絵画において樹林の緑色をつくるときの色の混合の割合が記され、八色の色合いを丁寧に使い分けて繊細に「自然の様子」を表現していることが伺えます。神々が運ぶ自然の移ろいの中にある限りない濃淡やニュアンスに心を重ねることは我が国の麗しい文化の一つです。
さて、去る五月二十四日に世界経済フォーラム(WEF)が発表した二〇二一年版の旅行・観光開発力調査(対象一一七の国と地域)において、日本は、アメリカ、スペイン、フランスを抑えて首位を獲得しました。その理由として、日本各地に巡らされ安全性・信頼性の高い交通インフラ、世界文化遺産、祭り、伝統芸能の豊かさなどが高順位の理由として挙げられ、諸外国を魅了する我が国の「文化力」への期待が浮き彫りになりました。全国の社寺は、日本の文化や伝統の集積地として、全国各地で育まれてきた歴史や信仰に根差した文化観光の拠点として捉えられています。
しかしながら、このような自国の魅力に国民はまだまだ気が付いていないのも事実です。観光とは、「自国の光りを観る」ことです。この光をより一層輝かせるには、目に見える部分や技巧的な面での卓越性のみならず、それを育んできた我が国の歴史や伝統、日本人の心の文化を私たち自身が深く知ることが必要不可欠です。この「国の光り」の源である「文化力」を磨き上げることは、「技術力」や「経済力」と同様に我が国の大切な柱であると存じます。
一方、世界に目を転じますとロシアによるウクライナ侵略は、世界秩序を一変させました。ロシアの国際法を無視した武力による現状変更や核・生物兵器をちらつかせる暴挙は対岸の火事ではありません。ロシアを含め隣国は専制政治体制が色濃く決して油断は禁物です。国際社会と連携し、あらゆる備えをすることは道理です。
今に生きる私たちも国の将来を見据え覚悟を決める秋だと存じます。
世界の平和と各位のご壮健をお祈り申し上げます。
令和四年六月十八日