御大礼(天皇陛下のご即位の儀式の総称)と日本の成り立ちを深く知るためのお話 ~私たちの国は、稲穂の国~
令和元年5月1日より、新しい天皇陛下がご即位され、御代の名は「令和」と命名され、日本は新たな時代を迎えることができました。
令和元年10月22日に行われた、雅な王朝絵巻が現代に蘇った「即位礼正殿の儀」や「饗宴の儀」では、国民、また世界中からの祝福をお受けになられる天皇陛下のお姿がインターネット、テレビ、新聞などで報道され、私たちに深い感動を与えて下さいました。
私たちは、今、世界中の文化に親しみ、学び、取り入れてゆくことができる時代に生きています。
天皇陛下を戴く日本の文化もまた広く世界に伝えられ、さらに親しまれていくことになるでしょう。
このような大きな節目を迎え、私たち国民も「日本」がどのような淵源を持つ国であるのか、また「国の中心に戴く天皇」とはどのようなご存在であるか、そうしたことに思いを致す良い機会であると思います。
ここでは、日本の国の成り立ちに深く関わる「稲作」と「祈り」そして、今まさにおこなわれている御大礼(ごたいれい)(天皇陛下のご即位の儀式の総称)を通じて、その理解を深めていただければ幸いです。
□斎庭の稲穂の神勅□
~稲穂の国、日本~
なぜ、日本は「瑞穂の国」(みずみずしい稲穂が稔る国)といわれる美称を持っているのでしょうか。
その答えは、神代まで遡ることになります。
私たちの総氏神とされる天(あま)照(てらす)大御神(おおみかみ)(伊勢の神宮に鎮まる天皇陛下のご始祖)が孫にあたる邇邇(にに)芸(ぎの)命(みこと)に、日本を平和で豊かな国にするためにといた三つの大切な教え(神勅)のひとつが、今から1300年前に成立した日本初の歴史書(正史)「日本書紀」(養老4年/720年)の巻第二神代下第九段一書第二にしるされた「斎庭の稲穂の神勅」(ゆにわのいなほのしんちょく)です。
注:斎庭(ゆにわ):神をまつるために祓い、清めた場所。祭の庭。
神勅(しんちょく/みことのり):神さまのお言葉・お告げ
日本書紀には、次のように記されています。
■吾が高天原に所(きこし)御(め)す斎庭の稲穂を以て亦(わが)吾児(みこ)に御(まか)せまつるべし■
これは、『我が子(男系男子の天皇)に高天原(天上界)で育った神聖な斎庭の稲穂を与えますので、豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)(地上)で育て、主食とし、稔り豊かで安定した国を造りなさい』との教えです。
もともと、「稲作」は、高天原で天照大御神(天皇陛下のご始祖)が自ら「稲穂」を育て、「稲作」をおこない、そしてその年に取れたお米を神さまにお供えし、感謝するお祭り「新嘗祭(にいなめさい)」をおこなってきました。
我が国において、「稲穂」と「稲作」は、高天原(天上界)と同じように豊葦原瑞穂国(とよあしはらのみずほのくに)(地上)が豊かになるようにとの「祈り」が込められた「神さまからの大切な頂きもの」、「神聖な仕事」であり、「命の根」(稲の語源の一つ)
として私たちの食生活はもちろん、日本文化の基礎となって今日まで続いています。
ご皇室にとって、「稲作」を産業の基盤とし、日本の国を豊かにすることは天照大御神から賜った神代(かみよ)からの使命の一つであり、現代においても変わることなく、その尊い約束をお守りされています。
□ご皇室と稲作□
私たち日本人は、「お米」を「神聖なもの」、あるいは「命の源泉」であると考えてきましたが、何よりも「お米」つまり「稲作」を大切にされているのがご皇室です。
現在においても稲作は、宮中でも行われています。今上陛下も上皇陛下よりその営みを受け継がれました。陛下御自ら毎年春には、種をまき、田植えをおこない、稲刈りなされます。宮中において、春には「祈年祭(きねんさい)」(収穫と諸産業の発展を祈る祭り)、秋には「新嘗祭(にいなめさい)」(収穫と諸産業に感謝を捧げる祭り)が行われてきました。
天皇陛下の「お田植え」により育った稲は、秋に刈り取られ、その初穂の一部が伊勢の神宮でおこなわれる「神嘗祭」(かんなめさい)にお供えされます。その後に宮中での「新嘗祭」にもお供えをされます。両方のお祭りは共に「収穫に感謝するお祭りです」
歴代の天皇は折に触れ「稲作」・「稲穂」についての和歌を詠まれています。
ここでは昭和天皇が皇太子時代にお詠みになられた和歌と明治天皇御製を紹介いたします。
※「御製」とは天皇陛下がお詠みになられた和歌です。
明治天皇御製
○すめ神にはつほささげて國民と共に年ある秋を祝はむ○
新嘗祭において、今年採れた稲を神々に捧げ、恵みに感謝し、国民とともに祝う悦びが歌い上げられています。
この和歌に詠まれた「年ある秋」の「年」(とし)とは稲穂あるいは稲作のことをさします。私たちの祖先は、稲は1年に1度収穫されることから、それを単位として「年」と表現してきました。
私たちが何気なく使っている「年」の由来は稲作からきています。
また、「稲」は命の根源であり、「イネ」の語源は「命の根」に由来していることからも、古より、人々は根源的に重要なものとして感じ取り、大切にしてきました。
迪宮裕仁親王(昭和天皇)による和歌
○新米(にいよね)を神にささぐる今日の日に深くもおもふ田子のいたつき○
毎年、新嘗祭を迎えるにあたり、生産者の「いたづき」(勤労)を思われ、私たちの生活の根源である稲の稔りに深くお心を寄せられていることが伺えます。この「稲の稔り」に代表される祈りこそ、歴代より継承され続けてきた国民の幸せを祈られる尊いお姿に他なりません。
□神社のお祭りとお米のお話□
神社で日々行われる「お祭り」もまた、その多くが「お米」と大きく関係をしています。
季節ごとの「お祭り」は「稲作」への「祈り」が形になったといえます。特に「新嘗祭」は宮中をはじめ全国の神社でもおこなわれる大切なお祭りです。
ここでは小國神社でも行われているお祭りも含めてご紹介します。
○祈年祭(きねんさい):その年の豊作・諸産業の発展をお祈りします。小國神社では、普段より厳重な斎戒(飲食や行動を慎んで、心身を清めること。)して臨みます。
○田遊祭・田遊神事(たあさびさい・たあそびしんじ):農作業
(稲作)の手順を演じ、その年の豊穣をお祈りします。小國神社では、田遊神事は文化庁より「記録作成などの措置を講ずるべき無形の民俗文化財」にも選択されています。
○御田植祭(おたうえさい):田植えの季節である5月に行うお祭りです。田遊祭と同じく、無事に稲が育ち、豊穣を祈ります。小國神社では氏子地区である宮代に神饌田を設けます。
○風祭(かざまつり・かぜまつり):稲の稔りが始まる9月頃におこなわれ、稲が台風などの風害で影響を受けないことをお祈りします。
○抜穂祭(ぬいぼさい・ぬきほさい):稲を育んでくれた田の神さまに感謝し、稲を刈りとるお祭りです。宮代地区に設けた神饌田より、稲を刈り取り、大神様へお供えをします。
○「新嘗祭」(にいなめさい):その年に取れたお米を神さまにお供えし収穫と諸産業の発展に感謝するお祭りです。
このほかにもそれぞれの神社では「稲穂」や「稲作」に関する様々なお祭りが行われ、神社の境内を田に見立てたり、実際に田で舞を舞うこともあります。このような神さまを祀る伝統や文化を大切にして、私たちは今日に至ります。
□神代からの約束ごとや歴史そして、こころを現代まで伝える国、「日本」□
天皇陛下は、ご即位とともに剣璽等継承の儀(けんじとうけいしょうのぎ)で皇位継承の象徴である「三種の神器」や「祭祀の場」、歴代の天皇によって受け継がれてきた由緒ある品々なども受け継がれました。
それと同じく、ご即位により、「悠久の日本の歴史と文化そのもの」を受け継がれました。
日本という文化の中心に変わることなくいらっしゃる天皇陛下は、神代より、2000年以上の長い歴史を紡がれ、この国と今に生きる私たちのまさに誇るべき「象徴」です。
□日本で一番のおまつり「大嘗祭(だいじょうさい)」をみんなでお祝いしましょう□
~29年ぶりの特別な年の特別な日~
そして、11月14日未明から15日にかけて、皇位継承の最重儀で、日本で一番のおまつりでもある「大嘗祭」が皇居・東御苑に建設中の「大嘗宮」(だいじょうきゅう)で行われます。
毎年、天皇陛下はその年の稔りを「国民の幸せ」と「国の繁栄」そして「世界の平和」を祈られる「新嘗祭」を宮中で行われていますが、とくに天皇御一代限りの重要なお祭りで、神話に基づく我が国の伝統をそのまま再現するお祭りとされるのが「大嘗祭」(だいじょうさい)です。
大嘗祭ではまごころを込めて育てられた、東日本の悠紀(ゆき)地方(栃木県)、西日本の主基(すき)地方(京都府)の斎田(さいでん)より収穫したお米を天皇陛下御自ら神々へおそなえされ、全国各地からは特産の農水産物が「庭積机代物」(にわづみつくえしろもの)として捧げられるなか、「国民の幸せ」と「国の繁栄」そして「世界の平和」などを祈られます。
その所作は秘儀として私たちが窺い知ることはできませんが、室町時代古典学者である一条兼良は「神代の風儀をうつす」日本の歴史と文化とこころが詰まった古い、古い儀式であると語っています。
神代より、常に国と民とともにあられる天皇陛下と私たちの信頼と敬愛に基づき、日本全体で挙行する大嘗祭は、その性格上、「日本の始原を示す、国民参加型の大切な儀式」です。
この特別な年の特別な日を私たち国民一人ひとりが心から大切にする気持ちで迎えたいと思います。
当社におきましても、令和元年11月14日の10時に天皇陛下のご即位をお祝いし、新しい御代が益々栄え行くことを祈念しつつ「大嘗祭当日祭」を斎行いたします。