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初夏の歳時記 ショウブになったアヤメグサ 見分けの難しいアヤメ、ハナショウブ、カキツバタ、そしてショウブ 古来、日本人はこれらの植物に何を求め、どのように親しんできたのでしょうか。
Vol. 314:2020.06.08(月)
本年の「一宮花しょうぶ園」が見頃を迎え、ご来園の皆様が
思い思いに初夏の色合いを楽しまれれいます。
ここでは、改めて花しょうぶの歴史深く関わる日本文化を紐解いてゆきたいと思います。
(令和2年一宮花しょうぶ園の様子)
○初夏の歳時記 ショウブになったアヤメグサ・・・○
見分けの難しいアヤメ、ハナショウブ、カキツバタ、そしてショウブ
古来、日本人はこれらの植物に何を求め、どのように親しんできたのでしょうか。
言葉は「生き物」ともいわれ、時代と共に移り変わるものも多いです。
それは、植物名も同じです。
初夏を告げる草花の中でも、間際らしいものの一つに、アヤメとショウブがあります。
さらには、「いずれアヤメかカキツバタ」と優劣が付けがたい状態を指すことわざもあるほどです。
私たちの祖先はこれらの植物に何を求めて生きてきたのでしょうか。
本更新をご覧になり、季節の花を感じながら私たち祖先の自然観を感じていただければ幸いです。
それでは先ず、以下の特徴を学んでゆきたいと思います。
アヤメ、ハナショウブ、カキツバタはいずれも葉が「剣状」で、花も美しく慣れないと区別しづらいです。
見分け方としては、生えている場所の違いです。
アヤメは「乾燥した陸地」に葉を伸ばし花を咲かせ、ハナショウブとカキツバタは「浅い水辺」に葉を伸ばし花を咲かせます。
花の時期に一見して区別をするには、「花と葉のバランス」を比較すると分かりやすいともいわれています。
ひとつの花のみで、識別するときは、「花びらの模様」を見ます。花が咲いていない時期には、葉の幅で見分けることができます。
在来種のほかにも水中で黄色い花を咲かせるのは、明治にヨーロッパより帰化したキショウブなどもあります。
(アヤメ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月
生育場所:陸地・草原
花と葉のバランス:花の高さが葉と同じくらいか、少し花が顔をだすくらい
花:ふつう紫で、花びらの中央につけ根から入る模様が黄地に黒紫色の網目
葉:剣状で幅は1センチ以上2センチ以下と細い
(カキツバタ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月
生育場所:水中・湿地
花と葉のバランス:花茎が葉よりも短く、花は葉より低く葉の間に見え隠れする
花:紫色の花びらの中央につけ根から白っぽい筋が真っ直ぐ1本入る
(ハナショウブ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月中旬から6月
生育場所:水中、湿地
花と葉のバランス:花茎が葉よりも長く、花が葉の上にはっきりと咲く
花:色は紫から白まで多数。いづれも花びらの中央に周囲が少し波打つ黄色い模様が見られる
葉:剣状で幅は1センチ以上2センチ以下
○本物のショウブ○
「一宮花しょうぶ園」が毎年開園し、私たちに馴染みがハナショウブは単にショウブと呼ばれることもあり、混同されがちですが、本来の
ショウブは植物学上全く別の種とされています。また、ハナショウブと葉が「剣状」で似ていることからも区別を間違えます。
しかしながら、本物のショウブの花は小さく、ツクシのような穂状の花を咲かせます。
一件地味な印象な花ですが、ハナショウブにはない芳香を持つことが大きな特徴です。
(ショウブ)
ショウブ目ショウブ科ショウブ属
開花期:5月~6月
生育場所:水中
花と葉のバランス:花茎は葉に似て、その中ほどから花穂(かすい)がでる
花:花は小さく、ツクシのような穂状にかたまって咲く。大きな花びらに欠く
葉:剣状で芳香を持つ。幅は1センチから2センチ
わたしたちが5月5日(端午の節句)に使うのはこのショウブです。
陰暦の5月は現在の6月にあたり、梅雨の時期にあたります。
古くは大陸の風習が我が国に伝わり、ショウブの根を刻み袋に入れて身につけたり、またお酒にいれて飲んだりしました。ショウブは殺菌
力のある成分を含んでおり、不衛生になりがちな梅雨を災い無く乗り切ろうと願ったものです。
日本では宮中行事として行われていたものがやがて民間に伝わり、現在の5月5日の端午の節句へと形が整えられてきました。
(小國神社 端午祭 ショウブを授与する巫女)
○ショウブの変遷、呼び名が変わるまで○
『令和』の元号の出典ともなり、今から約1200年程前に編纂された「万葉集」には万葉仮名で「安夜女具佐」(あやめぐさ)と詠まれ
た歌があります。
その内容は、ヨモギとともに頭に巻いた鬘(つる草などを髪飾り)にしたと詠まれています。
同じく、5月5日の歌には菖蒲・菖蒲草と記されていますが、同様な内容が詠まれていることからも菖蒲・菖蒲草は「あやめぐさ」と読ま
れていたことが伺えます。
それらが、現代におけるアヤメではなくショウブを指すとわかるのは、いずれも5月5日の端午の節句についての歌の中で詠まれ、その
「芳香に薬効を期待した利用方法」が記され、「花そのものの歌がない」点からも明らかです。
■紛らわしい変遷を辿るショウブ。では、アヤメの語源とはなんでしょう■
アヤメの語源は諸説あると言われています。
○花の下部に網目状の模様があることから「編目」(あやめ)
○漢の美しい女性に花を例えたとされる「漢女」(あやめ)
何れの説も花に基づいたものですが、ショウブの花は穂状の目立たないものでので、これらの説は成り立ちにくいのかもしれません。
そうなると、ショウブとアヤメに共通点を見いだしたとき、「剣状の葉」のならびを「文目」(あやめ)と見立てたようです。また、「文
目」の語の多くは、あとに「知らず」「分かず」「見えず」などの語を伴って用いることからも、見分けがつかないと意味もあるようで
す。
古典文学「枕草子」に5月5日端午の節供にショウブを屋根に葺いたり、腰に差すなどの行事が記載されています。
このころから「あやめぐさ」から「ショウブ」へと名前の転換が進行したものと考えられています。
○ハナショウブの登場、観賞用として広がったハナショウブ○
ハナショウブの名前が登場し始めるのは「山科家礼記」(延德4年:1492年)に生け花としてシャクヤクなどとともに生けられている
ことが記されています。
また、ハナショウブが観賞用として広がったのは江戸時代で、「花壇地錦抄」(元禄8年:1695年)には、8品種のが記載され、特徴
なども書かれています。
(花壇地錦抄:出典国立国会図書館デジタルコレクションより)
同書には現代のアヤメも記載され、紫アヤメ、白アヤメ、柿アヤメと3品種が見受けられます。
(花壇地錦抄:出典国立国会図書館デジタルコレクションより)
○最後に、、、、カキツバタが最初?○
すでに万葉集でも7首ほど詠まれています。同時代の「あやめぐさ」とは違い
花そのものあるいはその利用方法について詠まれています。
「住吉の 浅沢小野の垣津幡 衣に摺りつけ 着む日知らずも」
と詠まれることからもカキツバタの色で衣を染めたことがわかります。
アヤメもハナショウブも美しい花ですが、古代日本人の認識としては、カキツバタが花として注目されていたようです。
○結びに、、、花を愛で慈しむということ○
(令和2年一宮花しょうぶ園開園の様子)
我が国には四季折々の季節があり、それぞれの季節に沢山の美しい花が咲き、
幅広く私たちの生活に彩りを添えてくれます。
また、花を愛で、楽しむ文化は、春の桜木の下で賑やか過ごすお花見なども独自の文化と言えます。
古くは、万葉集などの和歌にも詠まれ、現代ではポピュラー音楽などにも必ず花が登場します。
また、女性の洋服の柄でも花柄などは定番のひとつとして親しまれています。
一方で、山野咲く花を愛でることはもちろん、花を植え、育て、さらには、切り花などにして鑑賞する華道文化もまた我が国独自のもので
す。
それらの文化的根源には、季節の巡行に自然や恵みを司る神々を見いだしてきた私たちの祖先の自然観が、今でも脈々と繋がっていること
が挙げられます。
言い換えれば、季節ごとの豊かな実りや草花を通して、私たちは常に神々の恵みをいただていることに他なりません。
本当にありがたいことです。
このような、日本の貴重な精神文化や豊かな感性はいつの時代にあっても大切にしてゆきたいものです。
6月14日まで開園中の『一宮花しょうぶ園』のご案内はこちら
をご覧下さい。
思い思いに初夏の色合いを楽しまれれいます。
ここでは、改めて花しょうぶの歴史深く関わる日本文化を紐解いてゆきたいと思います。
(令和2年一宮花しょうぶ園の様子)
○初夏の歳時記 ショウブになったアヤメグサ・・・○
見分けの難しいアヤメ、ハナショウブ、カキツバタ、そしてショウブ
古来、日本人はこれらの植物に何を求め、どのように親しんできたのでしょうか。
言葉は「生き物」ともいわれ、時代と共に移り変わるものも多いです。
それは、植物名も同じです。
初夏を告げる草花の中でも、間際らしいものの一つに、アヤメとショウブがあります。
さらには、「いずれアヤメかカキツバタ」と優劣が付けがたい状態を指すことわざもあるほどです。
私たちの祖先はこれらの植物に何を求めて生きてきたのでしょうか。
本更新をご覧になり、季節の花を感じながら私たち祖先の自然観を感じていただければ幸いです。
それでは先ず、以下の特徴を学んでゆきたいと思います。
アヤメ、ハナショウブ、カキツバタはいずれも葉が「剣状」で、花も美しく慣れないと区別しづらいです。
見分け方としては、生えている場所の違いです。
アヤメは「乾燥した陸地」に葉を伸ばし花を咲かせ、ハナショウブとカキツバタは「浅い水辺」に葉を伸ばし花を咲かせます。
花の時期に一見して区別をするには、「花と葉のバランス」を比較すると分かりやすいともいわれています。
ひとつの花のみで、識別するときは、「花びらの模様」を見ます。花が咲いていない時期には、葉の幅で見分けることができます。
在来種のほかにも水中で黄色い花を咲かせるのは、明治にヨーロッパより帰化したキショウブなどもあります。
(アヤメ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月
生育場所:陸地・草原
花と葉のバランス:花の高さが葉と同じくらいか、少し花が顔をだすくらい
花:ふつう紫で、花びらの中央につけ根から入る模様が黄地に黒紫色の網目
葉:剣状で幅は1センチ以上2センチ以下と細い
(カキツバタ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月
生育場所:水中・湿地
花と葉のバランス:花茎が葉よりも短く、花は葉より低く葉の間に見え隠れする
花:紫色の花びらの中央につけ根から白っぽい筋が真っ直ぐ1本入る
(ハナショウブ)
キジカクシ目アヤメ科アヤメ属
開花期:5月中旬から6月
生育場所:水中、湿地
花と葉のバランス:花茎が葉よりも長く、花が葉の上にはっきりと咲く
花:色は紫から白まで多数。いづれも花びらの中央に周囲が少し波打つ黄色い模様が見られる
葉:剣状で幅は1センチ以上2センチ以下
○本物のショウブ○
「一宮花しょうぶ園」が毎年開園し、私たちに馴染みがハナショウブは単にショウブと呼ばれることもあり、混同されがちですが、本来の
ショウブは植物学上全く別の種とされています。また、ハナショウブと葉が「剣状」で似ていることからも区別を間違えます。
しかしながら、本物のショウブの花は小さく、ツクシのような穂状の花を咲かせます。
一件地味な印象な花ですが、ハナショウブにはない芳香を持つことが大きな特徴です。
(ショウブ)
ショウブ目ショウブ科ショウブ属
開花期:5月~6月
生育場所:水中
花と葉のバランス:花茎は葉に似て、その中ほどから花穂(かすい)がでる
花:花は小さく、ツクシのような穂状にかたまって咲く。大きな花びらに欠く
葉:剣状で芳香を持つ。幅は1センチから2センチ
わたしたちが5月5日(端午の節句)に使うのはこのショウブです。
陰暦の5月は現在の6月にあたり、梅雨の時期にあたります。
古くは大陸の風習が我が国に伝わり、ショウブの根を刻み袋に入れて身につけたり、またお酒にいれて飲んだりしました。ショウブは殺菌
力のある成分を含んでおり、不衛生になりがちな梅雨を災い無く乗り切ろうと願ったものです。
日本では宮中行事として行われていたものがやがて民間に伝わり、現在の5月5日の端午の節句へと形が整えられてきました。
(小國神社 端午祭 ショウブを授与する巫女)
○ショウブの変遷、呼び名が変わるまで○
『令和』の元号の出典ともなり、今から約1200年程前に編纂された「万葉集」には万葉仮名で「安夜女具佐」(あやめぐさ)と詠まれ
た歌があります。
その内容は、ヨモギとともに頭に巻いた鬘(つる草などを髪飾り)にしたと詠まれています。
同じく、5月5日の歌には菖蒲・菖蒲草と記されていますが、同様な内容が詠まれていることからも菖蒲・菖蒲草は「あやめぐさ」と読ま
れていたことが伺えます。
それらが、現代におけるアヤメではなくショウブを指すとわかるのは、いずれも5月5日の端午の節句についての歌の中で詠まれ、その
「芳香に薬効を期待した利用方法」が記され、「花そのものの歌がない」点からも明らかです。
■紛らわしい変遷を辿るショウブ。では、アヤメの語源とはなんでしょう■
アヤメの語源は諸説あると言われています。
○花の下部に網目状の模様があることから「編目」(あやめ)
○漢の美しい女性に花を例えたとされる「漢女」(あやめ)
何れの説も花に基づいたものですが、ショウブの花は穂状の目立たないものでので、これらの説は成り立ちにくいのかもしれません。
そうなると、ショウブとアヤメに共通点を見いだしたとき、「剣状の葉」のならびを「文目」(あやめ)と見立てたようです。また、「文
目」の語の多くは、あとに「知らず」「分かず」「見えず」などの語を伴って用いることからも、見分けがつかないと意味もあるようで
す。
古典文学「枕草子」に5月5日端午の節供にショウブを屋根に葺いたり、腰に差すなどの行事が記載されています。
このころから「あやめぐさ」から「ショウブ」へと名前の転換が進行したものと考えられています。
○ハナショウブの登場、観賞用として広がったハナショウブ○
ハナショウブの名前が登場し始めるのは「山科家礼記」(延德4年:1492年)に生け花としてシャクヤクなどとともに生けられている
ことが記されています。
また、ハナショウブが観賞用として広がったのは江戸時代で、「花壇地錦抄」(元禄8年:1695年)には、8品種のが記載され、特徴
なども書かれています。
(花壇地錦抄:出典国立国会図書館デジタルコレクションより)
同書には現代のアヤメも記載され、紫アヤメ、白アヤメ、柿アヤメと3品種が見受けられます。
(花壇地錦抄:出典国立国会図書館デジタルコレクションより)
○最後に、、、、カキツバタが最初?○
すでに万葉集でも7首ほど詠まれています。同時代の「あやめぐさ」とは違い
花そのものあるいはその利用方法について詠まれています。
「住吉の 浅沢小野の垣津幡 衣に摺りつけ 着む日知らずも」
と詠まれることからもカキツバタの色で衣を染めたことがわかります。
アヤメもハナショウブも美しい花ですが、古代日本人の認識としては、カキツバタが花として注目されていたようです。
○結びに、、、花を愛で慈しむということ○
(令和2年一宮花しょうぶ園開園の様子)
我が国には四季折々の季節があり、それぞれの季節に沢山の美しい花が咲き、
幅広く私たちの生活に彩りを添えてくれます。
また、花を愛で、楽しむ文化は、春の桜木の下で賑やか過ごすお花見なども独自の文化と言えます。
古くは、万葉集などの和歌にも詠まれ、現代ではポピュラー音楽などにも必ず花が登場します。
また、女性の洋服の柄でも花柄などは定番のひとつとして親しまれています。
一方で、山野咲く花を愛でることはもちろん、花を植え、育て、さらには、切り花などにして鑑賞する華道文化もまた我が国独自のもので
す。
それらの文化的根源には、季節の巡行に自然や恵みを司る神々を見いだしてきた私たちの祖先の自然観が、今でも脈々と繋がっていること
が挙げられます。
言い換えれば、季節ごとの豊かな実りや草花を通して、私たちは常に神々の恵みをいただていることに他なりません。
本当にありがたいことです。
このような、日本の貴重な精神文化や豊かな感性はいつの時代にあっても大切にしてゆきたいものです。
6月14日まで開園中の『一宮花しょうぶ園』のご案内はこちら
をご覧下さい。